父の魂との会話時の手記3


父親は身体から魂が抜け、身体の苦痛から解放されたので、すこぶる元気でした。

誰もがつられてしまうほどの満面の笑みです。

 

私は結婚する際、父親と揉めました。私の子どもの頃からの夢は、結婚式場で披露宴をすることだったからです。

うちの親戚にはならず者が多いからダメだと言うのです。

 

己の宿命に嘆いていた私ですが、ハワイで挙式をあげるという仰天プランを立ち上げ、妻の両親の承諾を得て、私の父親の説得に当たりました。最初は凄く渋っていた父親でしたが、行くと決まれば大騒ぎ。「俺は小さい頃からハワイに行くのが夢だったんだ!」と、やんちゃな子どものように、はしゃいでいました。

その時の憎たらしいほどの笑み以上の満面の笑みなのです(笑)

 

 

父親は言います。

「これからは、俺を呼んだら、いつでも、どこにでも行く」

 

父の名を心の中で呼べば、天国から飛んでくると言うのです。

 

さらに父親は、

「お前を絶対、成功させてやる」

と言うのです。

 

 

私は漠然と成功を求め、実家を離れ、妻と二人で新天地へと旅立ちました。

あれから幾年月。成功どころか人生に絶望していた私です。

 

私は父親がそう長くないと感じた頃から、正直に胸の内を語っていました。

何をやってもうまくいかないこと。でも、子どもの頃から、成功したいと望んでいたこと。

 

父親は生前、そのことに関しては、特に何も語りませんでした。

 

ところが、これは後日、母親から聞いたのですが、父親は危篤になる前に、最後の一言を残したと言います。

 

それは、「俺が何もしてやれなかった分、俺の身体全部を使って、お前の成功を祈って死んでいく」という言葉だったというのです。

 

その言葉に、私はどれほど救われたでしょうか。

どれほど涙したでしょうか。

私はその言葉を胸に、今も生きています……。

 

 

そうしたエピソードを知る前でしたが、父親の魂は、「お前を絶対、成功させてやる」と直接、私に伝えてくれたのです。

 

その時の私は、父があの世の競馬場で、ギャンブルに勝った時の送金の話の延長だとばかり思っていました。

 

あの世からのはからいで、この世にお金を送金できるというのです。

 

私は、だったら、「一気にドッカーンとじゃなくって、ちょこちょこ送って欲しい」と父親に言いました。

 

すると父親は、「そんなうまくいかねぇ~んだ。ま……、楽しみにしてろ」と言いました。

 

 

父親の人生は、ほとんどギャンブル三昧でした。

時に釣りやキャンプを織り交ぜていましたが、ほとんど麻雀かパチンコか競馬でした。

中でも競馬だけは思い入れが凄かったように思います。

 

所詮、ギャンブル。そうは問屋が卸しません。

父親は、母親と一緒に老後のために貯めた貯金や、定期年金のお金も、こっそり全部降ろして使い込んでしまっていたのです。

 

それが発覚したのは父が亡くなる寸前です。

母親の怒りは半端なく、「今すぐ離婚する!」と、余命も残りあと僅かの父親にカンカンです。

「だからアンタは癌になったんだ!」と怒り狂っていました。

 

そんな母親を私は必死に説得し、何とか宥め、離婚を思い留まらせた経緯があります。

 

 

私はそんな背景を知っていたので、遠慮なく父親に聞きました。

 

「結局、何に使ったの、あのお金」と。

 

 

父親は言います。

「支払いとか、ホントに大変だったんだ」と。

 

闘病生活を余儀なくされ、思うように働けなくなっても、実際は、生活を維持するために相当な出費があったと言います。

それに、病院代だって、薬代だって、相当かかったはずです。

 

父親は、「もちろん競馬にも使った」と、正直に話してはくれましたが、私は、本当にお金では苦労していたのではないかと思いました。

家計の管理は父の役目で、母はノータッチだったので、母は本当の父の葛藤などは知らなかったのではないかと思いました。

 

 

その時の私の気持ちとしては、「あっち(天国)の人と会話してると、すべて(現世のこと)を超越しちゃって、質問が思い浮かばない。こっちでは深刻な悩みも、些細になってしまう」というのが、正直な気持ちでした。

 

凄く貴重な時間なのです。私は父の魂と会話をしているのです。しかも凄くリアルに。

なのに、質問が本当に思い浮かばなかったのです。

 

 

父の魂との会話でほっこりしていると、伯父の魂が、また私の前に姿を現わしました。